巡り合わせを、信じているから

失礼な話だと思うんですよ。


全力で自分たちの音楽鳴らしてる人たちを前にして、
別の音楽家の事を想ってライブ中に泣くなんてさ。
いつものあたしなら、絶対にできないことだし。


でもね、
失った悲しみに溺れたまま、
音楽自体があたしの中から消えてしまうのは嫌だったし、
何を聞いても目の前を素通りしてしまう、
今のこの虚ろな状況の、果てが見えない恐怖から抜けだしたかった。



忘れたい、ということではない。
ぽっかり空いた穴を埋めたい、ということでもない。
志村の変わりになるものなんて絶対に存在しないし、
その穴は、どんなに幸せなことがあっても、埋まるものでもないし。



これからを、ゆかねばならない身として、
衝撃が大きすぎて硬直してしまっているこころを、解きほぐしたかった。
たくさんのものを与えてくれた音楽を、
悲しみ一色に染めて、重く、心の底に沈めてしまうことを、したくはなかった。
あたしにとって音楽は、
悲しみとともに封印することができない程、親密な付き合いなのだ。



そのためには、
心ある人が鳴らす、心ある音楽と、真正面から向き合うことが必要だと、想ったんだ。



ライブという場所へ行くことすら辛かったし、
自分のポリシーに反していることも、
メンバーに対して不誠実なことをしているということも、承知だったけれど、
蔡くんなら、bonobosの音楽なら、
こんな気持ちすら、受け止めてくれるのではないか。
そんな勝手な思い込みで、行くことにした。






まだね、
心からめいっぱい、音楽を楽しめるようになるまでは、
時間が随分とかかると思う。
ひょっとしたら、
以前のように何も考えずに楽しめる日は、もう戻ってこないかもしれない。


けれど、
あたしの、コールタールのように暗く沈んだ心に、蔡くんのうたは、間違いなく響いた。


大好きなbonobosですら、耳に入らなかったどうしよう、という不安は、
あたりまえのように、みんなの音が、さらっていってしまった。


そして、
蔡くんがうたいたいものは、こんなにも、魂に近いものばかりなんだって、
そのことば、旋律のひとつひとつが、
みんな、繋がってるんだって、
耳に、こころに飛び込んでくるたびに、
痛みが伴うのは、そういうことなんだろうって、
改めて、身をもって理解できた。



bonobos、好きでいてよかったな。
一番最初のライブがbonobosだったこと、参加できたこと、本当によかった。




{GOLD}は、しばらく、彼のために、祈るうたにさせてください。