過ぎ去りしあなたに すべて伝えられるのならば

それは、
叶えられないとしても。







起きた事実に対して、
「もし」や「ひょっとしたら」は存在しない。



志村は、先にいってしまった。



あまりに、突然すぎた。
信じたくはなかった。
認めたくなかった。



でも、まぎれもない事実だ。



何度も公式発表を読んだ。
ミュージシャン仲間たちの言葉も読んだ。
カウントダウンの会場では、
先輩たちが、大切に彼のうたをうたってくれていた。
読むたびに、辛くて、悲しくて、涙が止まらなかった。


今だって、書いていて、画面がぼやけて、うまくキーが打ててない。



でも、誤魔化す訳にはいかない。
自分にわからせるために。



志村は、いってしまったのだ。



言いたいことがいっぱいあった。
もっと彼のうたを聞きたかった。
共に、ライブを作っていきたかった。



でも、それは、もう叶わない。




あたしにできることは、
彼の残したうた達を愛し続けること。
そして、
志村正彦という人を、忘れないこと。




・・・忘れられる訳がない。




彼から、なんとたくさんのものをもらっただろう。
身体の、心の一部になってしまうほど、聞いた彼のうた。



春の終りに、桜散る景色。
暑さに揺らめく、向こうに見える影。
白く煙る、遠い異国の地。
茜に染まる、いとしい人の輪郭。
何もかもを吹き飛ばしてしまう、音の渦。
藍色の空に、ぽつりぽつりとつく街灯のあかり。
タバコの煙と、白球が青空に浮かぶ休日。
朝のまばゆさに輝くの中、駆け出すスニーカー。
雨を避けた喫茶店の、口に合わないコーヒーの湯気。
湿った夏の空気と、土手の匂いと、空に浮かぶ大輪の花。
灰色の空と真っ暗な海を進む、小さな船の向こうに稲光。
不気味に浮かぶまんまるな月と、虚ろな夢。
走る電車の窓にもたれながら、つかの間陥る妄想。
孤独と、不安と、それを打ち消そうと振るう、むやみやたらな自信。


金木犀の薫りが包む、黄金色の季節。



季節が巡る度、ふと、空を見上げた時、
いつでも、彼のうたが、寄り添っている。




そして、
良くも悪くも、こんなに感情を揺さぶられるライブをする人は、他にいない。


あれだけのクオリティの音を鳴らすメンバーの真ん中で、
僕を見て、と言いながら、見られることを拒絶するような日もあれば、
子供のように、全部取っ払った、無邪気な顔を見せる時もあったり。
ものすごい数の人を、そのうたで躍らせているのに、
何も見ていないような目をしている時があったり。


どこを見ているのか、何を想っているのか、
彼の、本当・・・・真実・・・が見たくて、何度も会場に足を運んだ。



まったく立ち入る隙がなくて、悲しい想いをする日もあったし、
共に同じ景色を見ることができた、と感じた日もあったし、
彼の、心のほとりに、ちょっとだけ踏みこめたような気がした日も、あった。
全部が、この心と体に、刻みこまれてる。




ああ。
そうね。
あたしは、志村正彦という「人」に、惚れてたんだな。





正直ね、
まだ、全然、受け止めることできてないです。
もう、いないだなんて。



2日間、泣いては呆けてを繰り返して、ろくに眠れないし、何も食えなくて。
心ある音楽は、全部彼に繋がってるような気がして聞けないし、
一緒にライブ行ったり、フジについて語った友達からメール来ただけで、
彼の想い出が付随してきて、辛い。




音楽のない生活は、しんと、静まりかえっている。




今日も、無理矢理会社行ったけど、油断すると涙出てきちゃうし。
でも、
食わないとほんとに参っちゃうと思ったから、仕事終りに、
彼が好きだった、
ドトールミラノサンドAとブラックコーヒーを食べてきました。



こんな理由でもつかないと、食べようって気も起らない。








すいませんね。
こんなの読んだら、引く人多いと思いますけど。



でもね。
彼の作る音楽は、私の心の、ひとつの支えだったんです。
彼の存在が、過酷な人生を、少し和らげてくれてたんです。




失うこととは、こんなに辛いのか。
この苦しさは、収まる日がくるのだろうか。






それでも、朝はやってきて、
日常は、こんな嵐のような心をおいてけぼりにするように、淡々と進んでいく。



流れる時間の早さと、持て余す感情を前に、呆然としてしまう。