境界線

常識だと思い込んでいるものが、
違う形で現れたとき、
人は簡単に、冷静さを失う。
自分の常識に当てはまらないものは、
嫌悪感を示し、排除しようとする。
常識,なんてものは,どこも存在しないのに。
だがしかし。
常識なんて幻想だと,自分はわかっているつもりだが,
さて,その根拠のまったくない,常識らしきものに,
果たして自分は縛られずに生きているのか?と問われれば,
はっきり,イエス,とは言い切れない。
生きているには,何かしらの「よすが」が必要だ。
自分は周りに迷惑をかけずに生きていられている,という「よすが」が。
それを計るには,その得体の知れない常識とやらに,
自分があてはまっていると,信じ込ませる必要がある。
常識なんて曖昧模糊としたものだとわかっていて,
それでも,常識という言葉に頼っているのだ。


ちゃんとしてないとダメだと幼心に思ってから,
ちゃんと生きてるように見せかけていますが,
本当のところ,相当にダメ人間です。
だましだましなんとか来ましたが,
さすがにここまで生きてくると,だましも効かなくなってきます。
綻びは,いたるところに。
そのうち,破綻が起きるんじゃないかと。
破綻を起こすわけにはいかないんですけど,
一回壊れちゃった方がいいんじゃないかっていう気もしている。


差し伸べられる手は,いつも丁重にお断りしてきた。
掴んだ手を振りほどかれた時,
それに耐えられるとは思えないから。


松尾スズキさんの映画「クワイエットルームにようこそ」を見てきた。


もー,なんでこう,松尾さんは「見える」んだろう。
松尾さんが書くものはフィクションだけど,
世の中のほとんどの人にとってはノンフィクションになってしまう。
松尾さん自身にとっても,少なからず,
ノンフィクションの部分があるんだろうな。
感情移入させる,のとは,また違う。
もっと深いところまで「見られてる」感じ。
登場人物達のふとした行動や,感じた思いなんかに,自分が見える。
うまく言えないのですが,
松尾さんの作品を見たり読んだりすると,
自分の過去を,全部おさらいしたくなるんだ。


ゲラゲラ笑いながら,ちょっと泣いた。
そして少し,気持ちが晴れた。
松尾さんは,やさしいなあ・・・。
暴くようなことはしないんですよ。
事実として,すごくフラットに述べてくれるから,
こちらも,ちゃんと向き合える。


俳優さん,みんな完璧でしたね。
原作読んだ時から,鉄ちゃんは完全宮藤あて書きだなーと思ってたんだけど,
もうそのまんま(笑)
一番最初にクワイエットルームにお見舞いに来たシーン,すごいよかった。
あと,しのぶさんは,やっぱりすげー(苦笑)もー,怖いっす(笑)
女優さん,みんなすごい良くて,内田有紀ちゃんも蒼井優ちゃんも,
今まで見たことない顔いっぱいしてて,
でもすごい「存在」してて。
みんなこの作品好きなんだろうなあって。


久しぶりに,手放しでいい作品,と言える映画でした。

クワイエットルームにようこそ

クワイエットルームにようこそ